農・食・健康・むらづくりで新時代を拓く
「月刊「現代農業」を飾ったカリスマ人物伝フェア」
第4回 宇根豊

農家に学び、減農薬稲作運動を展開。人と自然のありようを具現した百姓権現
●減農薬稲作運動の目覚ましい成果
宇根は、福岡で農業改良普及員になって4年目の1978年、地元の農家が考案した「虫見板」を武器に、減農薬稲作運動を開始する。自分の田んぼ、イネの生育や、害虫の発生状況を細やかに観察することもなしに、防除暦にそって画一的に農薬を多投させる普及所や農協の指導体質への抵抗運動である。80年代半ばから「現代農業」に精力的に記事を執筆し、それらは単行本『減農薬のイネつくり』(1987)、『減農薬のための田の虫図鑑』(1988)、『除草剤を使わないイネつくり』(共著1999)へと結実。この農家自らの判断で農薬を散布する減農薬稲作運動は全国に広まり、農薬使用量を劇的に減らす成果を収めた。
●生物多様性への根源的まなざし
宇根の活動の転機となったのは、定年まで10年を残し、2000年3月、農業改良普及所を辞し、「農と自然の研究所」を設立したことである。この年発刊した『田んぼの学校 入学編』では、「田んぼは稲作りの工場ではない、カネでは量れない多くの恵みを育んでいるヒトと自然の場である」ことを高らかに宣言した。今まで農家が当たり前のこととしてやってきた「百姓仕事」が、カネと効率性のみを追求してきた近代稲作、官製技術に崩壊させられようとしていることへの警鐘である。それは、WTOによる農産物自由化に対抗して農水省が打ち出した「多面的機能」とは似て非なるもので、今はやりの言葉で言えば、生物多様性への現場からの根源的なまなざしと言えるものであった。
「茶わん1杯のごはんを食べることによって、赤トンボ1匹、ミジンコ10万匹、カエル3匹、涼しい風30秒…」という宇根の言葉は、絵空事に聞こえるかも知れないが、それは本来、農家も非農家も無意識のうちに分かっていた、人と自然のまっとうなあり様だった。しかし、その土台が崩されようとしている以上、これからは、「農が生みだすカネにならないものを、百姓が胸を張って表現し、国民がその通りだと言って支援するための思想や、摂理や、農法や、感性を、意識的に呼び戻し、新たに構築していかなければならない」、それが「農と自然の研究所」の設立の主旨であった。
●農家の声に耳を傾ける
「農と自然の研究所」は当初の予定通り、10年後のこの4月、幕を下ろした。宇根は、その間42点もの出版物を世に出し、作務衣姿で全国各地を辻説法に歩いた。農家の声に耳を傾け、その奥にある心性を掴みだし言語化して語り続けた、百姓の権現であった。だからこそ、農家はもちろん、都市住民もマスコミも、農水省をも心を揺さぶられ、一歩前に踏み出し始めたのだ。
うね ゆたか 1950年、長崎県生まれ
農薬多投の指導体質を批判し減農薬の手順と方法を手ほどきする。虫見板で稲作りも楽しくなる。
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稲だけでなく多くの生き物の命を育む田んぼ、里山、小川、ため池など田んぼ環境にを触れて感じて育てて考え合う「田んぼの学校」のテキスト。体験学習や総合的学習に携わる小中学校の先生や百姓先生に必携の指南書。
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●宇根豊氏、最近の推薦本
田んぼの生きものシリーズ
『赤とんぼ』『タガメ』『ゲンゴロウ』
かつての百姓は600種の生きものの名前を呼んでいました。同じ生きもの同士、 同じ場所で生きていたからです。現在では、150種ぐらいでしょうか、名前を知っているのは。それほど遠ざかってしまったのです。そこで私たち現代の百姓は、生きもの調査などを考案して、懸命に田んぼの生きものを見つめてきましたが、生きものの復活よりももっと大切なのは、生きものへの百姓のまなざしです。そのまなざしの手本がここにあります。
こういう世界が自分の田んぼや村にまだ残っているうちに、百姓がまなざしを取り戻しておかないと、手遅れになります。なぜなら百姓以外のだれが自然を本気で、仕事の中で守ることができるでしょうか。
ここには、効率至上主義が手を伸ばせない世界があります。こうしたカネにならない世界こそ、農のもうひとつの生産物です。そして、これらの生きものへのまなざしこそ、未来への最大の贈りものです。
田んぼに暮らす多くの生きものたちの、子育て、食餌、天敵、冬越しなど、四季の暮らしを活写し、生きものと生きもの、人と生きもののつながりを考え、生きものに思いを寄せる「田んぼの生きものたち」シリーズの第2弾。田んぼから飛び立ち、田んぼに産卵する赤とんぼ8種の四季の暮らし方や苦労、喜び、悲しみをオールカラー写真で紹介。なぜアキアカネやミヤマアカネが少なくなってしまったのか、共存するにはどうしたらよいのか。トンボ研究に生涯をかけた著者が240余枚のカラー写真で物語る。
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